◾️旅は、もっと軽くなれる
旅の暮らしは、案外シンプルなものだ。
日常の“快適さ”は、ちょっとだけ脇に置いていく。
荷物を減らして、肩の力を抜いて、
自然の中に入っていく──
それもまた、僕たちが愛してやまない冒険のかたち。

◾️いい服と、いいコーヒーを積んで
ルーフトップで暮らすということは、
寝袋も枕もすべて上に積んであるということ。
だから、車の中はいつでも自由がきく。
旅の必需品と、少しの遊び道具を詰め込めば、それでいい。
ベスにとって、その“必需品”のなかでも特別なのが、
いい服と、いいコーヒー。
そんな僕たちに、地元の仲間──Kokako(オーガニックコーヒーロースター)とSitka(クロージングブランド)から、
「一緒に旅に出よう」と声がかかった。
答えは、聞くまでもなかった。

◾️コーヒー好きのための、特別な一張羅
この数ヶ月、Kokakoのチームと一緒に
ちょっと特別なものをつくっていた。
コーヒー好きのためだけに仕立てた、カスタムのテント。
淹れたての一杯を、最高の朝に味わうための一張羅だ。
この旅の目的は、そのテントを広げて、
Kokakoのコーヒーを、最高の“目覚めの場所”で淹れること。
それだけだった。
◾️奇跡のタイミングを願って、南へ
夏の初めの旅。
空は澄みわたり、でも空気はまだ少し冷たかった。
ベスと僕がずっと夢見ていた、あるキャンプ地がある。
そこに行くには、いくつもの条件が奇跡のように重ならなければならなかった。
でも、それを試すにはちょうどいい時期だった。
寒さに備えた服もそろっている。
ニュージーランドでも屈指の豆を、たっぷり積んできた。

◾️風のない水を探して、地図の外側へ
その週の波は、まったく期待できなかった。
だから今回は、海ではなく内陸へ。
まったく違うタイプの冒険に切り替えた。
地図をくり返し見て、気になる場所にピンを落としていく。
でもすぐに気づいた。結局のところ、この旅は、
行きながら決めていくしかない。
風のない、クリアな水辺を探していた。
でも、何か所かまわってみても、どれも少しずつ理想には届かなかった。
それでも、気持ちは沈まなかった。
夏の始まりの空の下、どこに着くかもわからないまま進むこの感じ。
それだけで、十分だった。

◾️たどり着くには、少し骨が折れる
候補地は、あとひとつだけ残っていた。
ただ、その場所は原生林に囲まれていたので、最後の切り札として取っておくことにした。
小さな砂利道を進めるところまで進んで、
そこからは歩いて偵察に出る。そんな展開は、僕たちにとってはもうおなじみだった。
現れたのは、深くえぐれて狭いぬかるみ道。
徒歩で来て正解だった。
車を通すには、慎重にルートを見極めなければならない。
ひと目見ただけでも、なかなかに手強そうだったけど、
もしこの先に“正解”があるなら、挑まずに引き返すわけにはいかない。
ボディを法面に預けながら、
ベスがスコップ片手に進路を見つけてくれる。
5分の道が、気づけば30分の格闘になっていた。


◾️地図のとおりなら、ここでいい
どうにか、たどり着いた。
クルマは無事だった。粘土で少し擦れた程度で済んだ。
登り返しのことは、ひとまずあとで考えればいい。
あとは、ここが本当に、地図で見たとおりの場所なのかどうか。


◾️静かな湖と、ひと口の余白
林を抜けると、そこに広がっていたのは、
誰もいない白い軽石の浜と、想像を超える透明な青い湖だった。
風もほとんど吹いていない。
しばらく、目を疑った。
言葉が出ないまま、湖のほうを見つめていた。
浜の片隅に腰をおろし、昼ごはんの支度をはじめる。
やかんを火にかけて、新しいテントのポケットに入れていたコーヒー道具を取り出す。
湖から目を離さないまま、静かに湯気が立ち上がるのを待った。



◾️ここでいい、でもここじゃない
目の前に広がるこの白い湖畔も、たしかに素晴らしかった。
でも、僕たちは別の場所にテントを広げたかった。
Words: Joel Hedges - Feldon Shelter
Photos: Josh Griggs